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おはよう!
【純愛 恋愛小説】

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おはよう!-1


約束を取り付けて、初めての週末を迎えた。
溜息をつきすぎて、さすがに気持ちに諦めがついた和音が自室で練習に行く準備をしていると、ドアがノックされた。

「和音姉、今日練習行くの・・?」

かすかに開いたドアの隙間から小さい顔を覗かせたのは、一緒に住む和音の従姉妹の波音。水色のパジャマ姿で、和音と同じくらい伸ばした髪を垂らして首をかしげている。
和音に視線を合わせたあと、寂しそうに彼女の足元にあるホルンケースを見る。
か細い声で問われ、和音は少し罪悪感に駆られた。
ホルンケースを肩にかけると、和音はドアを開けて波音の前にしゃがんだ。
寂しそうに眉をしかめる波音と目を合わせると頭を撫でた。

「・・色々あってまだしばらく通うことになったの。ゴメンね、また、遊んであげられなくて・・」
「・・・っ・・」

申し訳なさそうに言葉を告げた和音の手を振り払って、波音は隣の自室へ戻ってしまった。
和音が追いかけようとした時、思い切りドアが閉まる音が響いた。

「・・・波音・・」

恐らく、ベッドの上で泣いているのだろう。それが分かる。
しかし部屋に引きこもられてしまっては、和音にはどうしようもない。
和音は自分の不甲斐なさに深く溜息をついた。少し痛くなる頭を抱えて仕方なく、階段を降りてリビングに向かう。
リビングには朝ご飯の用意をしている母親とソファーでくつろぐ姉の姿があった。
2階から降りてきた和音に気付いた母親が笑顔で挨拶をする。和音もそれを返す。

「朝ご飯、出来てるわよ。食べてから行きなさいね」
「うん、ありがと。」

ダイニングテーブルの横にホルンケースを下ろして、自分の席につく。
目の前には、美味しそうな匂いがする朝食。
いただきます。と手を合わせて言ってから、朝食に手をつけ始めた和音を一瞥した姉の天音はファッション雑誌に目を通すフリをしてわざと聞こえるように言う。

「鼓笛隊を辞めるから遊べるとか波音に期待させといて、結局ホルンなんていいご身分ねぇ!」
「・・!」
「天音!!」

思わず、和音の手が止まった。確かに鼓笛隊を辞められれば、病気がちの為にいつも一人で居る波音の面倒が見れると話していたことは事実だったからだ。
それが、出来なくなってしまったことも。
和音が難しい立場に立たされたことを知っている母親が注意をするも、天音の言葉は止まらない。

「さっきやたらと大きな音したけど、どうせ波音がアナタの言葉にショックを受けて部屋に逃げ込んだんでしょ。出来もしない事を、無責任に約束するなんてどうなのかしら」
「・・・・」

和音の呼吸が速くなった。頭も痛み始める。
いつものことなのに、と和音は頭の片隅で考えたがそれが最後。次第に何も考えられなくなり、息が苦しくなる。
椅子を引いて、前屈みになる。母親が背中を撫でる感覚が伝わってはくるものの、何の気休めにもならなかった。

「・・はぁ、は、ぁ、っ、は・・」
「和音!」

過呼吸を起こす妹を、姉は冷たい目で見た。

「その過呼吸も、ただの無責任な甘えでしかないんじゃないかしら」
「天音!いい加減にしなさい!和音は・・!」
「そんな身体で、楽器を・・ホルンを吹こうなんて音楽に対する侮辱もいいとこだわ!」

そう吐き捨てた姉は雑誌を和音の顔へと投げつけてリビングを出て行った。
雑誌の裏表紙で、和音の頬に一筋の赤い線が走った。その線からは血がたらりと流れる。
だが、過呼吸を起こす和音には何の痛みも感じられなかった。
ぐしゃっと前髪を握り潰し、懸命に呼吸を整えようと深呼吸を繰り返す。
もう片方の手を母親が両手で包み込み、温もりを与えてくれたおかげで少し安心した和音は姉の言葉を思い出さないよう別のことを考え始める。

「(これから、奏多に会わなきゃいけないんだから…こんな弱ってる所なんて見せられないでしょ…しっかりしなさい、和音…!)」

どこか気に食わない奏多の笑顔を思い浮かべると、苛立ち、悶々としていた気持ちが落ち着いてくる。
ふう・・と息を少し長めに吐くと、過呼吸も収まっていた。自分を支えてくれる母親から離れて、椅子に座りなおす。

「・・ありがと、お母さん」
「・・・和音、天音のことは・・」
「分かってるよ。気にしてないから大丈夫。」

申し訳なさそうな母親の顔を見ながら、自分の言葉に嫌気がさした。
姉から言われただけで過呼吸を起こす程のショックを受けといて気にしていない訳がない。
頬から流れる血をぐしっと腕で拭いながら、和音は早くもどっと疲れを感じていた。






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