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探偵と悪魔
【ファンタジー その他小説】

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その探偵は魅力的につき-1

5月某日、某音楽ホールにてピアニストのコンサートが行われた。この業界に現れたのはほんの1年前だが、瞬く間に人気を集めて今やコンサートチケットは即日完売するほどになっていた。
人気の理由は、ピアノの技術は言うまでもなく、コンサートの半分がファンたちのリクエスト曲に応えるもので幅広いジャンルを楽しめること、時折ある他楽器とのセッションが絶妙であること、そして何よりそのピアニストが美人であることだ。
女神、精巧なフランス人形、グラビアモデル以上、などと様々形容される。ブロンドのセミロング、ふくよかな胸、引き締まったウエスト、張りのあるヒップとすらりとした足。どのパーツを取っても理想型と言えるほどに美しく、男女問わずその美貌に魅了されていた。

(人気が出るのはありがたいですが、色々と悩みの種が増えますね。)
言わずもがな、この人気ピアニストは喫茶店のマスターだ。見た目がかなり違うのは、ウィッグをつけていることと、普段はサラシを巻いて胸を隠しているからだ。本人は肌を露出させることを好まないので、普段は黒いパンツに長袖のワイシャツ、黒のベストでまとめている。しかし、ピアニストの時には胸元が見え、尚且つ脚がうっすら見えるドレスを着させられる。それもこの仕事を辞めたい要因の一つらしいが、何よりスタッフの目線が痛いのが一番嫌なようだ。
以前にスタッフをなるべく女性で固めて欲しいとお願いしたこともあったが、人手不足と言う理由で即却下されてしまった。

「お疲れ様です。いやぁいつ聞いても神楽さんのピアノは最高っすね〜。」
コンサートを終え、控え室で休んでいるとスタッフのチーフがお茶の差し入れに来た。
「ありがとうございます。みなさんに支えていただいて、今日のコンサートを無事成功させることができました。ありがとうございます。」
席から立ち上がって深々とお辞儀する。
「やめてくださいよぉ〜。神楽さんと俺たちの仲じゃないですか。そんな畏まらなくても。」
そうやってスタッフはさらりと肩を叩く。
(その隙に、この人胸をチラ見するんですよね...)
顔には出さないが、苦手なスタッフの一人である。全員ではないが、8割程度のスタッフは何かしら性的な目線で神楽(マスターのこと)を見ていると本人は感じている。
「そういえば、しばらく休養するんっすか?次のコンサート日程を組んでないって聞きましたけど。」
「ええ、少しコンサートが続いて疲れたのもありますが、もっとピアノ練習をしたいと思いまして。」
「そんなに上手いのにまだ練習するんっすか。」
「探求に終わりはありませんよ。」
そう言いながら、彼女は荷物をまとめて帰り仕度をする。今は上下レディーススーツ姿になっている。
「お疲れ様でした。お先に失礼しますね。」
スタッフ一人一人に声をかけ、ホールを立ち去る。そしてその足で、自身の所属する芸能事務所へ向かう。


「神楽ちゃん、コンサートお疲れ様。今日も大盛況だったみたいだね。」
今彼女が話しているのは所属事務所の社長である。
「で、話っていうのはなんだい?」
「はい、実は今後のことについてなのですが。」
「グラビアもやるかい?すごくウケるぞ。」
以前から社長は、彼女の容姿に目をつけており、ピアノだけでなく別の分野でもと声をかけ続けていた。
「いえ、こちらを。」
そつなく断りながら彼女が差し出したのは辞職願だ。
「は?冗談でしょう。人気が出て、これからって時なのに。」
「どうにも人に見られる仕事が合わないんです。今日をもって退職させていただければと。」
「何をいうんだい。きっと疲れてるんだよ。長めの休養にすれば...」
「芸能界には残りたくないんです。一人細々と生きていたいなと思いまして。」
社長は頭を掻きむしった後、思い切り机を叩く。
「冗談じゃない!君を発掘したのは私だ。ここまででかくしてやったのも私だぞ!君に恩義は無いのか?どれだけ我が社に損失が出ると思っている?君の存在はもはや君だけのものじゃ無い。無責任過ぎるぞ。」
「無礼を承知でお願いしています。」
「ならこんなもの持って帰れ!」
「嫌です。」
「ならばどうするつもりだ。損失を埋めてくれるとでも?無理だろう。せめてここまで出した給与分くらいは返してもらわんと...」
今度は神楽が机を叩く...というより大きめのアタッシュケースを置く。
「そうおっしゃるかと思いましたので、ここまで頂いた給与、返還致します。」
「なんだと!?これまでの給与は...」
「約2億円でしたか。きっちり中に入ってますよ。」
「信じられん...何故そこまでして辞めようというのだ。ここまで稼げる仕事などとほぼ無いだろうに。」
「お金はそこまで重要では無いので。あくまで生き延びられれば十分です。」
そこまで言って、彼女は気付く。周りには男たちが並び、先程より険悪な状態になっていることに。
「考え直さないか?そのカラダを活かせる仕事を提供してやる。給与も今の3倍は出してやるぞ。」
最早社長は女を仕留めることしか考えていない。
「何をしろと?」
「まずはそこで脱いでもらおうか。」
周りの男たちも舌舐めずりしながら様子を見守る。
彼女は目を見開いて周りを確認する。
「脱げば...解放して下さるのですか。」
「君の誠意次第だな。」
神楽はゆっくり衣服を脱ぎ捨てる。
彼女は一糸纏わぬ姿になる頃には、男性陣の理性は完全に崩壊していた。


「...む?」
ふと、社長は突っ伏していた机から顔を起こす。
目の前にはスーツを来た神楽。周りの男たちは皆眠ってしまっているようだ。
「で?」
神楽は社長に詰め寄り、胸ぐらを掴む。
「夢の中ではお楽しみだったようですが、辞職は受け入れて下さるんですよね?」
彼女は笑顔で話しているが、目は笑っておらず、有無を言わさぬオーラを纏っていた。





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