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珈琲のような恋でした
【初恋 恋愛小説】

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珈琲と砂糖-1

今日もまたこの喫茶店へと足を運んでいる。
私がこの場所へ通うようになったのはきっとあの出来事のせいである。
いつものように図書館で本を読んでいた私は雨が本降りになるまで気づいていなかった。
その日はちょうど傘を忘れてしまった私は大学の入り口でどうしようかと思い悩んでいた。
いっそ濡れてもいいから走って家まで帰ってしまおうかとも思っていた矢先
「傘、忘れたの?」
聞き覚えのある心地の良い低い声が後ろから降ってきた。
振り向くと落ち着いた雰囲気の男性が優しい眼差しで私を見ていた。
「あぁ、ごめん余計なお世話だったね。」
「いえ、そんなことは…」
彼の雰囲気でついたじろいでしまう。
「じゃあよければ僕の傘に入るかい?」
「いえいえいえ、そんなこと…」
「でも、この大雨じゃ風邪ひいちゃうよ。」
「でも…」
「いいから早くしないと門しまっちゃうよ。」
仕方なしに彼の傘の中に入り帰るかたちとなった。
「雨強いですね。」
「そうですね…なんで声をかけたんですか?」
単純な疑問をぶつけてみた。
「なんで、と言われましても…困っていらしたからぐらいしか…」
「ある意味すごい人ですね。」
「そうですか?でも困っていた以外にも理由がありますよ。」
「どんなですか?」
「知っている人だからです。」
え、誰だっけ…確かに聞き覚えのある声だけど…
「まぁ、せいぜい声を覚えているぐらいでしょうかね、でも明日には会えますよ。」
私にはその意味がよくわからなかった。
「さてと、少し休んでいってください。」
「えっと…」
「まぁ入って入って。」
カラン
少し重い扉を開けるとコーヒーのにおいが漂っていた。
「タオル持ってくるのでカウンターの席にでも座ってください。」
「はっはい。」
落ち着いた雰囲気の店内は居心地の良い空間そのものであり、窓を見ると雨の水滴が無数についていて店内の光に反射してほのかに輝いていた。
「お待たせしました。」
タオルを差し出されそれで水滴をふき取った。
「今、コーヒーを出しますね。」
コーヒー豆をコーヒーミルに入れ挽いていく。
挽き終わるとドリッパーにフィルターを付けコーヒー粉をそこに入れお湯を注ぐ。
ふわっとコーヒーの香りが広がっていく。
「もう少しですからね。」
「詳しいんですね。」
「そりゃ、一応ここの店主ですから。」
「えぇ、すごいですね。」
「それほどでもないですよ。」
少し恥ずかしそうに目をそらすあたりが少し可愛く思えた。
「そういえば、お名前を聞いてませんでしたね。」
「石井優美って言います。」
「優美さんですか。似合ってますよ。」
「あなたは。」
「僕は日吉涼真といいます。」
「いい名前ですね。」
「ありがとうございます。そろそろよさそうですよ。」
ドリッパーからカップにコーヒーを注いでいく。
「お待たせしました。レギュラーコーヒーです。」
出来立てのコーヒーからは湯気が上っている。
「砂糖入りますか?」
「一つください。」
ポチョンと砂糖が入り溶けていく。
「では、いただきます。」
口の中に入れるとそのほろ苦い味と香りが口いっぱいに広がっていく。
それらを十分に味わった後で喉に通す。
コーヒーがなくなった後も余韻が残っていて、これら一連が一つのストーリーのように感じられた。
「どうですか?」
「とても美味しいです。」
「それはよかったです。」
「なんかこのコーヒー、涼真さんみたいですね。」
「それはどういう?」
「うーん…口じゃあんまり説明できないけれど…」
「ならば優美さんは砂糖ですね。」
そういった彼は、笑っていた。
しばらく談笑をしたのちにコーヒーを飲み終わった。
「あのコーヒー代は…」
「結構ですよ。それより雨もそのうち降ってきますから急がれたほうが。」
「そうですか…じゃあまた来てもいいですか?」
「ええ、またのご来店を心よりお待ちしております。」
カラン
扉を開けて、雨上がりのにおいを感じながら、足早に家へと向かった。
その時も涼真さんとコーヒーの味を思い出していた。


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